野鳥を観察するようになったのは30年以上前、大学生の頃からだが、野鳥を超望遠レンズで撮影するようになったのはここ10年ほど。カメラメーカーのプロモーションのためであったり、雑誌の購入ガイドを執筆するために作例を撮ったり、様々なカメラメーカー、レンズメーカーの製品を借用して、主に野鳥を被写体に超望遠撮影を続けてきた。最近はその手の仕事の依頼が来なくなってしまったのは寂しいかぎりだ。
しかし、新製品が出ると「試写してみたい」と思うのは、カメラ好きであれば誰しも思うこと。使いたいレンズを片っ端から買っていては破産してしまうので、レンタルという手段をとりつつ、気になる望遠レンズや超望遠レンズを私なりに「テイスティング」してみようと思う。
かつて500mmという焦点距離での野鳥撮影には、100万円を超える高価な500mm F4レンズが不可欠だった。300mmF2.8に2倍テレコンを付けて600mmF5.6として使うという方法もあるにはあるが、一般的ではなかった。
変化の兆しは、テレ端が500mmに達する超望遠ズームレンズの登場。確か2004年に発売されたタムロンのSP AF 200-500mm F/5-6.3 Di LD[IF]が最初だったと思う。全長は200mmを超える長いものだったが、重量は約1,200gで、実機を触ってその軽さに驚いたことを覚えている。ただし、手ブレ補正機能を内蔵していないこともあり、シャープな写真を撮るには三脚が必要なシロモノだった。
2008年になると、シグマからAPO 150-500mm F5-6.3 DG OS HSM が登場する。こちらは手ブレ補正機能を内蔵し、より贅沢なレンズ設計で、重量もタムロンの200-500mmの約1.5倍(約1,780g)もあった。当時、こうした500mmをカバーする超望遠ズームレンズの実用性の高さに気づき、導入する人もあったが、使用頻度が高いであろうテレ端の開放F値がF6.3とやや暗いことで敬遠する層も一定数いたと記憶している。
状況が大きく変化するのは、2014年のこと。2013年末にタムロンがSP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USDを発売。従来機のワイドとテレの両端を拡大し、手ブレ補正機構を内蔵することで機動力を高めた。翌年、シグマも同じ焦点域をカバーする150-600mm F5-6.3 DG OS HSM|Sports を発売する。キヤノンEOS 7D MarkⅡが発売されたのもこの年。プロモーションに野鳥写真家や動物写真家が大々的に使われたこともあり、野鳥撮影への関心が高まり、カメラ雑誌で超望遠撮影の企画が取り上げられる機会も増えた。
超望遠レンズへの関心の高まりは、デジタルカメラの高感度画質の向上でさらに加速する。ただ、ミラーレス一眼が普及する中、超望遠ズームレンズは一眼レフ用のものばかりで、ミラーレス一眼向けのレンズの登場が望まれてきた。
最初に登場したのが、キヤノン RF100-500mm F4.5-7.1L IS USM。2020年8月発売。テレ端は500mmに抑えつつワイド端は100mmスタートとなっており、従来のEF100-400mm F4.5-5.6L IS Ⅱ USMのテレ端を伸ばし、EOS R用としたものと考えられる。三脚座込みで1,530gと軽量化が図られている。ただし、実勢価格は368,500円と、誰もが購入できるという価格ではない。
タムロンは、150-500mm F/5-6.7 Di Ⅲ VC VXD(ソニーEマウント用)を2021年6月に発売。テレ端は500mmに短縮されてしまったが、サイズをソニー FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS とほぼ同じ大きさに抑え、機動力の高い超望遠ズームレンズに仕上げた。シグマもほぼ同じタイミングとなる2021年8月に 150-600mm F5-6.3 DG DN OS|Sports を発売。Sportsシリーズに位置づけられる画質重視モデルで、ソニーEマウントとライカLマウントの2タイプが用意された。これにより、フルサイズミラーレス一眼のキヤノン、ソニー、シグマ、パナソニック、ライカ向けの超望遠ズームレンズが出揃ったことになる。
今回はその中の1本、タムロンの150-500mm F/5-6.7 Di Ⅲ VC VXD を試写した。レンズの最大径は93mmと従来の150-600mm(108.4mm)よりもスリムになり、全長は約60mm短くなっている。重量はタムロンの150-600mmより若干軽くなっている。着脱式の三脚座を外せば 1,725gとより軽くなるが、三脚座にはストラップホールがあり、このホールにカメラストラップを通したいので外さずに撮影した。
レンズの重量バランスはよいので、軽量のカメラボディと組み合わせても快適に撮影できる。AFはα7RⅢのほぼすべての機能が働き、リアルタイム瞳AFも可能。リニアモーターAF機構により、静かに素早くフォーカスを合わせる。
側面には4つのスライドスイッチがあり、AF関連はAF/MFの切り替えとフォーカスリミッター(測距範囲の切り替え)の2つ。フォーカスリミッターは、最短撮影距離をフル(ワイド端で0.6m、テレ端で1.8m)、3m、15mの3つから選ぶことができる。動物園では、3m〜無限遠を選ぶと、AFが手前の柵やアクリル板に惑わされることがなくなり、素早くフォーカスが合ってくれる。
VC(手ブレ補正機能)関連のスイッチは2つあり、1つはVCのON/OFF、もう1つはVCモードの切り替え。VCモードは標準の1、流し撮り用の2、フレーミング重視の3の計3つのポジションがある。1はシャッターボタン半押しの状態でVCが作動するモードで動かない被写体をシャープに撮るためのもの。2は飛行機や鉄道、陸上競技など一定方向に動く被写体を流し撮りするためのもの。3はシャッターを切る瞬間に強力な手ブレ補正効果が得られるモードで、不規則に動き回る被写体に合った手ブレ補正モードだろう。今回、動物園での撮影では、初めモード1で撮影したが、動く被写体をカメラで追うと細かなブレを抑えきれなかった。途中からモード3に切り替えたところ、手ブレ補正効果が向上し、被写体をカメラをフォローしながらシャッターチャンスを狙う場合には、モード3の方が相性がよいことがわかった。
今回、タムロンの150-500mm F/5-6.7 Di Ⅲ VC VXDを使ってみて感心したのは、「フレックスズームロック機構」の便利さ。ズームがどの位置にあってもズームリングをスライドさせるだけでズーム位置を固定できる機能で、フレーミングを決めて被写体を待つときに使用したほか、移動時に勝手にズームしないよう固定するために利用した。150mmの位置で固定できるズームロックレバーもあるが、撮影中は「フレックスズームロック機構」の方が使いやすいと感じた。
気になったのはフォーカスリングの位置。AFでフォーカスを合わせた後、MFでピント位置を微調整する撮り方をOM-Dで常用しているため、フォーカスリングの位置と操作性には敏感にならざるを得ない。特に野鳥撮影では、AFだけでは狙った位置にピントが合わず、MFでの微調整は欠かせない。しかし、タムロンの150-500mmのフォーカスリングはボディ寄りに位置し、幅が狭い。三脚使用時には気にならないだろうが、手持ち撮影時にMF操作を行うのは難しい。この点だけは、OM-D使いの私には不便に感じられた。
描写性能に関して、今回の試写を通じて気になる点はない。逆光気味の撮影シーンもあったが、レンズコーティングがよいこともあり、フレアが生じたり、コントラストが下がるような場面はなかった。ボケの描写は単焦点の超望遠レンズに比べれば、若干見劣りする部分もあるが、ボケがざわつくようなこともなく、超望遠ズームレンズとしては優秀だと思う。
テレ端では開放F値がF6.7と若干暗いため、絞り開放で撮影することが多かった。チーターの撮影では逆光となり、背景に玉ボケが出るシーンがある。円形絞りを採用しているため、全体的に玉ボケの形はキレイだが、画面周辺部では口径食の影響が出ていることを確認できる。絞りを1〜1.5段ほど絞れば改善するが、光量がたっぷりとあるシーン以外では、絞り開放で撮らざるを得ない。
今回試写したタムロン 150-500mm F/5-6.7 Di Ⅲ VC VXD は、マップレンタルで借りたもの。動物園で試写したほか、2日ほど野鳥撮影に使ってみた。野鳥撮影が目的であれば、600mmまでカバーする超望遠ズームレンズのほうが望ましいが、動物園の撮影ではテレ端が500mmでも十分に撮影を楽しめた。テレ端の最短撮影距離が1.8m、ワイド端で0.6mと超望遠ズームレンズとは思えないほど近接撮影能力が高いので、花畑を長焦点でクローズアップ撮影を楽しむのにもよさそうだ。
何より、メーカー希望価格 187,000円、カメラ量販店での実勢価格が 151,760円(税込)と手頃な価格である点が大きな魅力。約15万円で500mmの超望遠撮影が可能なAFレンズ(しかも手ブレ補正機構付き)が手に入ると思うと、いい時代になったものだと思う。ライバル機のシグマ 150-600mm F5-6.3 DG DN OS|Sports の存在も気になるので、機会があれば試写してみたい。