となりのカワセミ

2022年1月1日。今日は終日、家でのんびり過ごしたが、1つだけ“いいこと”があった。特徴のある「チーッ」という声が自宅の脇を流れる川のほうから聞こえてきた。川に面した窓から目を凝らすと、対岸のコンクリート壁に設けられた点検用のステップに小さな鳥がとまっているのが見えた。コバルトブルーの美しい羽とオレンジ色の腹、長いクチバシとくれば、カワセミに間違いない。

川や池の水面近くを「チーッ」とさえずりながら直線的に飛ぶカワセミ。美しい羽の色は「翡翠色」とも言われ、宝石に例えられるほどで、多くの野鳥ファンを惹きつける魅力的な鳥。30年以上前は、河川や湖沼の水質悪化もあり、滅多に見ることのできない「幻の鳥」と言われる時代もあったが、ここ20年ほどは水辺の水質改善や環境保全の動きもあり、全国各地で再び姿を見せるようになった。

水中にダイブして小魚やエビの仲間を食べるカワセミにとって、川や池の水質、透明度は重要。エサがしっかりと確保でき、巣作りをする場所があれば、都市部でも生活できるように適応してきたことがあるのかもしれない。

自宅脇を流れる川の点検用ステップにとまるカワセミを2階の窓から撮影

自室の窓から川をのぞき込むと、水面は見えないのだが、対岸のコンクリート壁に設けられた点検用のステップがよく見える。時折ここにカワセミがとまり、水面を凝視する姿を見せてくれる。その様子を35ミリ判換算、1600ミリ相当で撮影したのが、上の写真。まったく絵にならないポジションだが、自室からカワセミの観察ができるというのは、贅沢なことではないか。

スジエビをとらえた井の頭池のカワセミ

東京へ移り住んで9ヵ月ほどになるが、野鳥を撮影するときは、近場の石神井公園か、井の頭公園に出かけることが多い。どちらも大きな池があり、カモなどの水鳥が多く棲んでおり、被写体に事欠かない。同時に、どちらの池にもカワセミが現れるということも、両公園を訪れる理由の1つだ。

身近な所に撮りたくなる被写体がある、というのは幸せなこと。ただ、相手は気まぐれで、いつ、どこに現れるかはそのとき次第。光線状態や背景を自由に選ぶことはできず、臨機応変に彼らを撮るしかないのが辛いところ。もちろん、カワセミを専門に撮るカメラマンは徹底的にカワセミの行動を観察し、各個体の行動パターンを理解し、よくとまる杭や枝、時間帯によって変わる狩り場を熟知したうえで撮影している。

気まぐれで、こちらのいうとおりに動いてくれないカワセミ。彼らを撮るときは、瞬時に反応し、素早くカメラを操作することを求められる。でもこの緊張感が堪らない。スリルのあるゲームに挑戦するような感覚を強く感じさせるのがカワセミという被写体なのかもしれない。