ズーム比が高くて寄れるは正義。私の標準ズームレンズ遍歴を飾る1本

川越のシンボル「時の鐘」。25mmの画角が欲しくなるアングル

初めて一眼レフを買った中学生のとき、揃えたレンズは単焦点だった。ズームレンズを使うようになったのは高校生になってからで、80年代半ばのこと。当時はまだカメラメーカー製の標準ズームレンズの主流は35-70mmで食指が動かなかった。レンズメーカーからは、35-105mmズーム、28-70mmズームが発売されており、気持ちはレンズメーカー製に傾いていた。そして、ズーム比の高い35-105mmか、広角側が広い28-70mmか、大いに悩んだ。結局、愛読していたカメラ雑誌『CAPA』の記事に後押しされ、28mmをカバーするトキナーの28-70mm F4(FDマウント)を選んだ。確かCAPAカメラテクニカル工房の記事で、このレンズを高く評価しており、同時期に写真家の奈良原一高氏が広角レンズを使うなら28mmがいい、とCAPAの記事で強く推していたことにも影響された。

このトキナー28-70mmF4のいいところは、ズーム全域でF値が一定であること。これにより、マニュアル露出のコントロールがしやすくなる。また、70mm時に限定されるが、簡易マクロ機構が設けられ、一般的にズームレンズが不得意だった近接撮影能力が高かったことも大きな魅力だった。

シグマ17-70mmズームレンズの第二世代(Ver.2.0)、手ブレ補正機構(OS)を搭載した17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM。

トキナー28-70mmF4は FDマウント(しかも、リングを回転して締めるスピゴットマウント!)で、キヤノンAE-1、AE-1+P、T70と組み合わせ、1992年ごろまで愛用していた。その後、大口径ズームレンズが持てはやされるようになると、ペンタックスのZ-1にFA★28-70mm F2.8を付けて取材撮影をこなしていたが、後に手ブレ補正機構を搭載したキヤノンEF 28-135mm F3.5-5.6 IS USMが発売されると、EOS-1Nにメインカメラを乗り換えるなどしてフィルム一眼レフ時代を過ごした。

21世紀に入り、フィルム一眼レフからデジタル一眼レフへとシフトしてゆく中、フィルム時代から使っていたレンズは防湿庫に入ったままになる。最初に購入したデジタル一眼レフである オリンパス E-1 には、ZUIKO DIGITAL 14-54mm F2.8-3.5 を、次に購入した ニコンD40Xには、シグマ 17-70mm F2.8-4.5 DC MACRO HSMを組み合わせた。前者は35mm判換算で28-108mm相当、後者は25.5-105mm相当とワイド側はやや異なるが、テレ側はほぼ同じ画角。いずれもワイド側でF2.8の明るさを確保している点も同じ。開放F値は明るいものが欲しいが、F2.8通しの大口径ズームは高価なうえ、かさばるのでパス。ワイド端は28mm以上の広い画角は欲しい。さらにテレ端は70mm止まりではなく、100mmまでカバーする高いズーム比が必須、というのが私の標準ズームレンズ選びの基準になっている。

川越・喜多院にある多宝塔。青空と雲を活かしてシンメトリーな構図を選んだ。RAW現像時に暗部を明るく持ち上げ、明瞭度をアップしている。

この無茶な要求に応える初めての標準ズームレンズが、オリンパスのZUIKO DIGITAL 14-54mm F2.8-3.5であり、追って誕生したシグマの17-70mmズームレンズだった。いずれもワイド端でF2.8の明るさを持ち、最短撮影距離が短く、寄りから引きまで、自由自在に撮影できる点が共通している。キヤノンも、EF-S 17-85mm F4-5.6 IS USM、EF-S 15-85mm F3.5-5.6 IS USMのような意欲的なレンズを出し、ソニーは Vario-Sonnar T* DT 16-80mm F3.5-4.5 ZA、ペンタックスは smc PENTAX-DA 17-70mm F4 AL[IF]SDMとHD PENTAX DA 16-85mm F3.5-5.6 ED DC WR を用意しているが、開放F値の明るさがもの足りない。

唯一、ニコンが2015年になって出した AF-S DX NIKKOR 16-85mm F2.8-4E ED VR が私のニーズに応えられるもの。近接撮影能力はやや落ちるが、ナノクリスタルコートを施した高性能レンズ。ただ、ミラーレスカメラ化の波がニコンにも押しよせ、発売から4、5年で販売終了となってしまった不遇のレンズだ。

なお、シグマの現行17-70mmズームレンズは、3世代目。初代の17-70mm F2.8-4.5 DC MACRO が誕生したのは2006年。この年、キヤノン EOS 30D、ニコン D80、ペンタックス K10D、ソニー α100が発売されている。また、ニコンのエントリーモデル D40、D40Xがヒットしていた。このD40シリーズは、ニコンのデジタル一眼レフとしては初めてボディにAF駆動用のモーターを内蔵していないモデルだった。そのため、シグマの初代17-70mmは、D40、S40Xでは使えなかった。そこで、急遽、2007年にレンズ内に超音波モーター(HSM)を搭載したニコン用モデルを追加発売した。このHSMモデルはニコン用のみで、価格も大幅にアップ(翌年、従来モデル並みに値下げ)された。

カメラメーカー各社が交換レンズに手ブレ補正機構の搭載を進めており、これに対抗するためにシグマも独自の手ブレ補正の研究を進めていた。最初は大柄な望遠ズームレンズへの搭載から始め、比較的コンパクトな17-70mmズームにも搭載するようになったのが2009年。このVer.2.0モデルでは光学設計も刷新。非球面レンズを増やし、テレ端のF値をF4.5からF4へと改善した。新しいレンズ設計のため、全長が1cm弱伸び、重くなってしまったが、最大径は変わらず、フィルター径も72mmをキープした。最短撮影距離は2cmほど伸びたのはやむを得ないが、最大撮影倍率が下がってしまったのは残念だった。

面白いのは、ボディ内に手ブレ補正機構の搭載を進めていたペンタックスとソニー向けの17-70mmズームレンズ。両メーカー向けのレンズにも、手ブレ補正機構「OS」が搭載された。もちろん、ボディとレンズの手ブレ補正機構が連動することはなく、いずれかの手ブレ補正をOFFにして使うことになる。

テレ端70mm(35mm判換算105mm相当)の近接撮影。絞りは開放F4。ボケはクセがなくキレイ。

2012年、シグマは新しい製品コンセプトに基づく、ラインナップの組み方、品質管理についての発表を行った。これ以降に発売されるレンズは、Contemporary、Art、Sportsのいずれかの名を冠したものとなり、独自のMTF測定器を用いて、出荷前に全数検査を行うこととなった。APS-Cサイズ一眼レフ用標準ズームの主力機である、17-70mm F2.8-4 は Contemporaryシリーズに位置づけられ、レンズ設計とボディデザインが刷新された。新しい光学設計により、全長が短くなり、軽量化された。

現在、APS-Cサイズのデジタル一眼レフカメラ用のレンズとして考えると、シグマ 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM|Contemporary 一択となる。ニコンユーザーであれば、ディスコンになってしまったAF-S DX NIKKOR 16-85mm F2.8-4E ED VR が、一部店舗に残るのみ。これが、ミラーレスカメラとなると、マイクロフォーサーズ用のパナソニック LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm F2.8-4.0 ASH. POWER O.I.S.と、ソニーE マウント用のタムロン 17-70mm F2.8 Di Ⅲ-A VC RXD の2本になる。特にタムロンの17-70mmは、ズーム全域で開放値がF2.8と明るく、描写性能も高いと聞いている。高度な製造技術が必要なガラスモールド非球面レンズと複合非球面レンズを使うことで、他のレンズにない、高い光学性能を実現しているようだ。

ただ、個人的には、シグマの17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM|Contemporary のミラーレスカメラ判を是非とも見てみたい気分だ。

川越市に残る大正時代の和洋折衷住宅、旧山崎家別邸のステンドグラス。35mm域(52.5mm相当)で撮影した。

多分、17-70mm F2.8(あるいはF2.8-4)という仕様のズームレンズは、フルサイズ機用で作ることは難しいのだろう。焦点距離からみると、各社の24-105mmF4ズームレンズがこれにあたる。開放値をF2.8にすると、ミラーレスカメラ用とはいえ、大きく、高価なものになってしまう。唯一、タムロンの28-200mm F2.8-5.6 Di Ⅲ RXD が、ズーム比が高く、寄れて、ワイド端が明るいレンズという条件を満たしている。価格も手ごろで、ソニーα7シリーズと組み合わせて使う常用標準ズームレンズとしては、悪くない。フィルター径が67mmとシグマ17-70mmズームの72mmより小さい点も驚きだ。

川越市の旧山崎家別邸の川越市の旧山崎家別邸の庭に面した和室。正座をし、低い位置から正対して撮影。28mm相当では画角が足りず、25.5mm相当のシグマ17-70mmだからこそ、この広がりのある空間を写し取ることができた。

しかし、1度、24mmや25mm相当のより広い画角を知ってしまうと、28mm相当では満足できなくなる。私の贅沢な悩みを解決してくれる理想の標準ズームレンズは、フルサイズ機では難しく、APS-Cサイズ機やマイクロフォーサーズ機の世界でしか実現しないのかもしれない。ただし、光学技術の進化は今なお進んでいる。パナソニックの LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6 の登場には驚かされた。いつか、フルサイズミラーレスカメラ用の 24-105mmF2.8-4 レンズをどこかのメーカーが開発してくれるかもしれない。

川越市の蔵造りの町並みで撮影した味のある瓦屋根。青空と鮮やかな緑の松葉に映える。

実は、川越市の古い町並みを撮り歩く最中、気づいたのだが、私が所有するシグマ 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM は片ボケを起こしていた。購入時に見落としたのか、画面の左寄りの像が流れ、絞ってもシャープに写らない。特にカメラが2400万画素のニコンD7200なので、その像の乱れは目を覆わんばかり。ブログに掲載した縮小画像では気にならないかもしれないが、元の画像を5Kモニターで見ると、ガックリくる。そもそもレンズの組み付けが悪いのか、手ブレ補正機能が悪さをしているのかわからないが、今後は撮影に持ち出すことはないだろう。

気に入っているレンズでもあり、修理に出すことも考えるが、全数検査をしている 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM|Contemporaryを買うほうが、長い目でみると幸せな気もする。懐具合を考えながら、しばし思案することにしよう。