Supremacy In Single Focus Lens #5|OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO

種を啄むヤマガラ

300mmレンズは35mmフルサイズ機にとっては、少し長めの望遠レンズという位置づけだが、センサーサイズの小さなマイクロフォーサーズ機の場合、35mm判換算で600mm相当の画角を持つ超望遠レンズとなる。オリンパスのデジタル一眼レフシステムのフォーサーズには、早くからZUIKO DIGITAL ED 300mm F2.8があったが、マイクロフォーサーズとなってからは長らく超望遠レンズは不在だった。望遠ズームレンズとして、M.ZUIKO DIGITAL ED 75-300mm 4.8-6.7 はあったが、本格的な野鳥撮影や動物撮影に使うには役不足。大口径で高画質の超望遠レンズの誕生が待たれていた。

流れが変わったのが、2013年10月の OM-D E-M1の発売。ミラーレス一眼カメラのフラッグシップ機E-M1と同時に、「M.ZUIKO PRO」レンズシリーズが誕生した。当初は標準ズームレンズのM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO」のみだったが、併せて望遠ズームレンズのM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO の開発が発表された。35mm判換算で80-300mm相当とテレ端は短いが、2014年11月の発売時には、1.4倍のテレコンバーター(MC-14)も登場し、35mm判換算で112-420mm相当の画角が得られるようになった。

OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO(2×テレコンMC-20付き)+OM-D E-M1X

2014年2月に横浜で開催された「CP+2014」には「300mm F4.0 PRO」のモックアップが参考出品された。細かな仕様は発表されなかったが、フルサイズ一眼レフ用の100-400mm 望遠ズームレンズと同じくらいの大きさで、取り回しが良さそうに見えた。このレンズの開発発表により、ED 40-150mm F2.8 PRO の購入を見送ることにした。

M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO が正式発表となったのは、2016年1月6日。参考出品から約2年が経っていた。このレンズは参考出品時には判明していなかった機能がある。それはレンズ内への手ぶれ補正機構(IS)の搭載。しかも、ボディとレンズの手ぶれ補正機構が連動する「5軸シンクロ手ぶれ補正」を実現し、当時世界最強の6段分の補正性能が得られた。これは嬉しい誤算で、この強力な「5軸シンクロ手ぶれ補正」の採用により、35mm判換算で600mm相当の超望遠撮影が三脚を使わなくても安心して行えるようになった。ある意味、ED 300mm F4.0 IS PRO は、野鳥撮影に革命をもたらすレンズだったのだ。

梅の花の蜜を求めて飛んできたメジロを至近距離でキャッチ。目のまわりやノドの羽毛の1本1本がしっかりと描写されている。この解像度の高さ、キレのよさが、ED 300mm F4.0 IS PROの魅力。

2016年は、この M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO で野鳥の作例写真を撮る1年だったといっても過言ではない。2016年の早い時期に実機を借り、OLYMPUS のwebサイトに掲載する写真を撮り、レンズの魅力を解説する記事を執筆した。レンズが発売されるとED 300mm F4.0 IS PROを即購入し、さらに作例写真を撮り続けた。

2016年当時使っていたカメラはOM-D E-M1で、記録画素数は約1600万画素と、他社のAPS-Cサイズ機やフルサイズ機に比べると、画素数が低かった。にもかかわらず、M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO で撮影した野鳥の写真は緻密な描写をしており、細かな羽毛の1本1本がわかるほど、鮮明に写っていた。これは、ED 300mm F4.0 IS PRO の優れた光学性能に起因する。画面の中央部から周辺部まで均質で、高い解像力を見せている。倍率色収差や軸上色収差、球面収差が確認できないほどキレイに補正されており、こうしたこともシャープな描写に寄与しているのだろう。

背景の玉ボケが美しいところも ED 300mm F4.0 IS PRO の強み。ボケが美しいと野鳥の姿が引き立つ。

絞り開放からキレのよい描写を見せ、ボケが美しいことも、このレンズの魅力。コマ収差や非点収差も少なく。描写性能について、ほぼ弱点がない。ただし、カメラのOM-D E-M1の動体撮影能力が低く、シャッターチャンスを逃すこともあった。この点は、2016年末に発売されたOM-D E-M1 MarkkⅡ のAF性能が大幅に向上したことで改善された。

ED 300mm F4.0 IS PRO と最初に組み合わせたOM-D E-M1は動体予測AFの性能が不十分で、飛んでいる野鳥にピントを合わせ続けるのは苦手だった。2016年末に発売された OM-D E-M1 MarkⅡ は、動体捕捉性能が大きく向上し、最大約18コマ/秒のAF追従連写が可能になった。E-M1 MarkⅡを使うようになってから、ミサゴの飛翔写真を撮るようになった。

M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO の特筆すべき魅力の1つに、1.4倍テレコンバーターMC-14を装着しても、画質の低下が少なく、AF性能にも変化がない点がある。そのため、MC-14を併用して、840mm相当で撮影する機会が多く、むしろ、MC-14を付けた状態が標準になっていた。

M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO に使えるテレコンバーターは2種類。右のMC-14は1.4倍テレコンバーターで、35mm判換算で840mm相当の画角が得られる。左のMC-20は2倍テレコンバーターで1200mm相当の画角が得られる。

なお、2019年6月には、2倍テレコンバーターMC-20が追加され、35mm判換算で1200mm相当の超望遠撮影が可能になり、近づくことが難しい小型の野鳥を撮影する際の大いに役立つと思った。しかし、MC-20を装着すると描写性能の低下が感じられるようになった。ただし、この評価は極めて光学性能の高いマスターレンズに比べると、画質が落ちて感じられるというもので、1000mmオーバーの画角が得られるレンズとしては優秀であろう。

地元のネイチャーガイドの案内で石垣島の夜の生き物観察に出かけたときに撮ったリュウキュウコノハズク。ライトで照らされているとはいえ、600mm相当の超望遠レンズを手持ちで撮影できる明るさではない。しかし、「5軸シンクロ手ぶれ補正」のおかげで、1/60秒程度でもシャープに撮れた。

現在、すべてのカメラ・レンズメーカーの超望遠レンズ、それも単焦点レンズをみると、100万円を超えるプロ用レンズがほとんどで、ニコンのAF-S NIKKOR 500mm F5.6 E PF ED VR でも50万円を超える。ユニークなものとして、機能と解放F値を落とすことで10万円前後の価格を実現したキヤノンの RF 600mm F11 IS STM、RF 800mm F11 IS STM がある。明るい屋外であれば、野鳥撮影が楽しめるが、暗い森の中では無理だろう。カメラのセンサーサイズを無視して考えると、描写性能に優れた単焦点の超望遠レンズで、30万円台というM.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO は、貴重な存在ではないだろうか。

その後、オリンパスでもズームタイプの超望遠レンズを2本、発売している。特に M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC 1.25× IS PRO は高性能のようだが、単焦点レンズである M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO の優位性は変わらないだろう。単焦点だからこそのキレのよい描写も持つ ED 300mm F4.0 IS PRO は、マイクロフォーサーズシステムを使い続けるかぎり、手元に置いておきたいレンズだ。

河原でアメリカセンダングサに飛んできたジョウビタキのメスを M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO+MC-20の1200mm相当で撮影。午後4時前後であり、オレンジ色の色調で画面を構成できた。2020年1月から2月にかけて、東京と大阪のオリンパスプラザで開催された「OM-D野鳥写真9人展」に出品した作品。