香川県の県庁所在地、高松市の海の玄関口が高松港。この高松港のすぐ目と鼻の先、フェリーでわずか15分ほどの距離に浮かぶのが女木島だ。かつて隣接する男木島とともに雌雄島村を構成していたが、現在は高松市に編入されている。高松側には海水浴に適したビーチがないため、夏になると高松市民はフェリーに乗り込み、砂浜のある女木島で水遊びを楽しんできた。
女木島は南北に細長い島で、中央部に山があり、集落が東西に分かれている。高松からのフェリーが着岸する東の集落は東浦と呼ばれ、島民のほとんどはこちらの集落で暮らしている。女木港の北側には砂浜が広がり、夏になると休憩施設が設けられる。女木島の景観の特徴ともいうべきものが、屋根が隠れるほど高く積まれた「オーテ(オオテ)」と呼ばれる石垣。冬の季節風が海から吹きつけ、波しぶきが住宅を襲う。これを防ぐため、集落の海沿いには3〜4mほどの高さまで石が積まれ、集落を守っている。場所によってはきれいに積み直されたり、コンクリートで固められたりして、風情のないオーテもあり、古い石積みのままのオーテを残してほしいと願っている。
女木島の集落は平地にあり、こぢんまりしている。瀬戸内国際芸術祭の作品展示を行う建物も点在し、期間中は賑わうが、それ以外の時期は静か。迷路のように入り組んだ路地で、方向を見失いそうになることも。
東浦の集落から島の反対側の集落へ向かう道を上ってくると、見晴らしのよい高台に出る。ここには陶芸家であり、現代アート作家でもある杉浦康益さんの作品「段々の風」がある。実はこの作品の設置場所の草刈りをし、石垣を積み上げる作業に参加したことがある。そうそう作品を構成する大量のオブジェを、高松市内の倉庫からトラックに積み、島のこの場所まで運ぶ手伝いもしたっけ。このオブジェは焼き物なので、積下ろしには苦労したなぁ。この写真を見るとそんなことを思い出す。
女木島随一の観光名所といえば、島の中央にそびえる鷲ヶ峰(標高186.8m)の山頂近くにある鬼ヶ島大洞窟。総延長約400mと長く、人工的に掘られた形跡があることから、鬼のすみかと称している。実際、成り立ちは不明で、採石のために掘られたとも、古墳時代の古い豪族の砦として掘られたとも言われている。面白いのは、昭和初期に観光地「鬼ヶ島」と大々的にPRしたため、関西からも観光客が押し寄せたとか。今の姿を見ていると、この静かな女木島に多数、船が寄港し、観光客であふれた様子は想像も出来ない。なお、鬼ヶ島大洞窟内の各所に、やはり瀬戸内交際芸術祭の一環で、高松市民が作った鬼瓦が敷きつめられている。
個人的には男木島を訪れることが多かったのだが、2013年の瀬戸内国際芸術祭の折には、女木島を頻繁に訪れた。また、2012年に高松市へ移住してきた直後、家族揃って自転車と一緒に女木島へ渡り、桜の花を楽しんだことや、幼い息子を連れて、ビーチで遊んだこともあった。そうしたこともあり、カメラを持ってじっくりと撮り歩く機会は少なかったが、親しみを感じる島である。