Supremacy in Single Focus Lens #1|dp2 Quattroの30mm

SIGMA dp2 Quattro(左)と超広角レンズを搭載する姉妹機、dp0 Quattro(左)

カメラと付き合い始めて約40年。最初に使ったカメラは、実家にあったオリンパス TRIP35だった。露出は基本的にオートで、ピント合わせは4つの距離から選ぶゾーンフォーカスタイプ。レンズは、D.ZUIKO 40mm F2.8が搭載されている。次に入手したキヤノン A35デートルクスのレンズも40mmF2.8。当時のフィルムコンパクトカメラのレンズは40mmが一般的で、私にはその感覚が染みついているのかもしれない。

しかし、一眼レフカメラのAF化が進むにつれ、ズームレンズを使う機会が増えた。便利さに流され、安易にズームレンズを使うようになってしまった自分を戒める意味も含め、単焦点レンズ付きのカメラだけを手に、写真を撮る機会を持とうと思う。これが、この“Supremacy in Single Focus Lens(単焦点レンズ至上主義)”シリーズを始める理由。

このシリーズの第1回目に選んだのが、シグマ dp2 Quattro。APS-CサイズのFoveonセンサーを搭載したレンズ一体型デジタルカメラ。レンズは30mmF2.8で、35mm判換算で45mm相当の画角が得られる。45mmという画角は、標準レンズの50mmより少し広角側に位置し、「準標準レンズ」と呼ばれるカテゴリーにある。シグマは、フルサイズセンサーに対応したEマウント、Lマウント用レンズとして、45mm F2.8 DG DN|Contemporaryを2年ほど前に発売している。APS-Cサイズ機用には、約45mm相当の画角が得られる30mm F1.4 DC HSM|Artが用意されている。40mm F1.4 DG HSM|Artという高価で巨大なレンズもあるが、シグマはどうしてこうも「準広角レンズ」が好きなのだろうか。

近所の哲学堂公園で撮ったスナップショット。35mmだと被写体にグイグイ近づかなければならないが、45mm相当の画角は適度な距離感で撮影できる。

準標準レンズの特性について「見たままの自然な遠近感を演出する」と謳っているのがリコーイメージング(ペンタックス)。金属鏡筒の精巧な作りのLimitedレンズシリーズの中の1本、FA 43mmF1.9 Limitedの解説の中で触れている。確かに広角レンズの35mmは、被写体を大きく捉えようとすると被写体に近づかなければならず、主要被写体と背景との距離感、いわゆるパースペクティブが強調されてしまう。準標準レンズは画角が狭い分、主要被写体とは距離をとった状態で撮影できるため、自然な遠近感での表現が可能になる。逆に50〜58mmの標準レンズは画角が狭いため、周囲はカットされ、ポートレートのように主要被写体を注視したような写真になる。その間にある40〜45mmの準標準レンズは、周囲の状況を写し込みながら、被写体と背景の距離感を自然に表現できる絶妙な焦点距離であり、画角であるのだろう。

豊島区のトキワ荘マンガミュージアムに設置されたダイヤル式の青電話。撮影距離が近いときも、画面の四隅まで歪みがなく、キリッとした絵が得られ、街角のスナップが楽しくなる。

35mmや28mmの広角レンズでスナップ撮影するときは、カメラから主要被写体までの距離、主要被写体と背景の距離、焦点距離による遠近感(パースペクティブ)の強弱を計算してフレーミングしないと、残念な写真になってしまう。その点、40〜45mmの準標準レンズは、素直に感じたままレンズを向けて撮影すると、自分が見たままの絵を切り取れるように思う。

シグマ dp2 Quattroは、Foveonセンサーの描写に目が行きがちだが、収差が非常に少なく、周辺部まで均質な描写であるというレンズ性能の見事さにも注目したい。開放値はF2.8と控えめだが、レンズ径は約65mmと太め。dp Quattroシリーズ共通のサイズのようだが、これは鏡筒部にAF駆動部を内蔵していることに加え、左手でレンズを支えるときに十分な太さが必要だと判断したためだとか。確かに左手でレンズ部を下から支えると、親指と人差し指でレンズをつまむようになり、安定感がある。縦位置で構えるときも、左手はレンズを支えたまま、左手でグリップを上に上げればよく、横位置と縦位置の切り替えをスムーズに行える。これもdp Quattroシリーズの良いところだ。

dp2 Quattroの最短撮影距離は28cm。これでほぼ最近接。絞りはF2.8で、背景のボケ具合が確認できる。ボケは素直でキレイ。

手ブレ補正機能を持たないdp2 Quattroだが、レンズシャッター方式のためカメラ内の機械的な振動は非常に少なく、しっかりと両手で構えれば、鮮明な写真が撮れる。光量が十分にある条件であれば、近接撮影時のブレの心配はあまりしなくてよさそうだ。レンズ構成は6群8枚で、非球面レンズを1枚使用。ボケも素直で絞り開放から気持ちよく使える準標準レンズだと思う。