近ごろ何かと話題の40mmレンズで遊ぶ

OLYMPUS OM-D E-M1 MarkⅡ Panasonic G 20mm F1.7 ASPH.

リコーイメージングが発売したGRⅢx(2021年10月1日発売)の販売が好調のようだ。35mm判換算で40mm相当の単焦点レンズとAPS-Cサイズの約2424万画素CMOSセンサーを搭載したコンパクトデジタルカメラで、28mm相当の単焦点レンズを搭載したGRⅢの姉妹機だ。標準レンズの50mmでも、広角レンズの35mmでもない、40mm相当のレンズを持つカメラが売れていることに驚きを感じている。人物をメインに撮るのであれば、画角が狭い分、28mm相当より使いやすいと考えて選ぶ人が多いのかもしれない。

最近、40mmや40mm相当の画角のレンズが各社から登場している。これは映像制作の世界で、40mmレンズが標準レンズのように考えられていることと関係があるのかもしれない。GRⅢxと同じ2021年10月1日発売のNIKKOR Z 40mm f/2、SONY FE 40mm F2.5 G(2021年4月23日発売)、Voigtlander NOKTON 40mm F1.2 Aspherical SE(2020年6月24日発売)などがある。さらに12月10日には、35mm判換算で40mm相当の画角が得られるM.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PROがOMDSから発売される。

35mm判換算で40mm相当のPanasonic LUMIX G 20mm F1.7 ASPH.(左)とVoigtlander ULTRON 40mm F2(右)

私の手元には、Voigtlander ULTRON 40mm F2(Fマウント)と35mm判換算で40mm相当になるPanasonic LUMIX G 20mm F1.7 ASPH.(マイクロフォーサーズ)がある。以前、Supremacy In Single Focus Lens #1 で書いたが、D.ZUIKO 40mm F2.8を搭載するオリンパス TRIP35から写真撮影を始めたこともあり、40mmに対しては愛着がある。現在では、ズームレンズを多用するようになってしまったが、意識的に“単焦点レンズ縛り”の撮影を行うことを楽しむようにしている。

40mmについて考える上で、PENTAXの43mm F1.9 Limitedレンズについて触れておきたい。リコーイメージングの扱いとなっているペンタックスブランドの交換レンズにHD PENTAX-FA 43mmF1.9 Limitedというものがある。このレンズは「肉眼で見た自然な遠近感」を目指し、35mm判フィルムの対角長にあたる43mmを採用したという。標準レンズの考え方には諸説あるが、35mmのようにパースペクティブ(遠近感)が強調されず、「見たままの自然な遠近感」が得られる焦点距離が40mm前後であるという考え方に基づいて作られたのが40mmレンズなのだろう。

近接撮影能力が高く、パースペクティブの少ない素直な描写がよい。 OLYMPUS OM-D E-M1 MarkⅡ Panasonic LUMIX G 20mm F1.7 ASPH. 絞りF2.8 1/6400秒 ISO200 

スナップ撮影というと広角レンズである28mmや35mmのほうがパースペクティブを強調した画面構成ができる。フレーミングを工夫することで、インパクトの強い写真が撮れるのが、広い画角を持つレンズの特徴でもある。一方、40mmは素直な遠近感で、適度に画角が狭いことから、被写体と距離を取りつつ、客観的な視点で被写体を捉えるのに向いている。遠近感を強調しない40mmの画角を持つレンズは、クセのない描写になるため、フレーミングには広角レンズ以上に工夫が必要だと思う。

実際に40mmだけをカメラに付けて出かけてみると、28mmや24mmで撮るときよりもフレーミングに気を遣う必要があると感じた。画角が広く、パースペクティブの効果を利用できる広角レンズは、主被写体にグッと迫り、サッとシャッターを切れば、平均点以上の仕上がりを期待できる。しかし、肉眼で見たままに近い写りとなる40mmでは、頭の中でしっかりと画面構成をシミュレーションしないと平凡でつまらない写真になってしまうようだ。

広角レンズのように被写体に迫らず、ふと目に入った光景にレンズを向けるだけで見たままに切り取ることができる。奥に並ぶ遊具と斜光線で生じた木立の影がポイント。 OLYMPUS OM-D E-M1 MarkⅡ Panasonic LUMIX G 20mm F1.7 ASPH. 絞りF4.5 1/80秒 ISO200 

私が持っている Panasonic LUMIX G 20mm F1.7 ASPH.は、2009年9月18日に発売されたマイクロフォーサーズ用レンズで、非球面レンズ2枚3面を含む5群7枚構成で素直な描写をする。全長は25.5mmと薄型設計で、重さは約100g。2013年7月11日には、光学系はそのままに部材の見直しで約87gまで軽量化したⅡ型に切り替えられた。最短撮影距離は0.2mと短い点はよいが、AFスピードが遅く、AFの動作音がうるさい点は感心しない。

マイクロフォーサーズ用の40mm相当のレンズとして、M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PROが間もなく発売される。小型カメラに似合うパンケーキレンズとして設計されたLUMIX G 20mm F1.7 ASPH.と、描写性能を追求したPROレンズとして作られるED 20mm F1.4 PROではコンセプトが違うので、比べても意味ないが、40mm好きとしてはED 20mm F1.4 PROの写りが気になって仕方がない。

石碑や石仏などをパースを抑えて撮りたいときに、35mm判換算で40mm相当の画角のレンズは使いやすい。 OLYMPUS OM-D E-M1 MarkⅡ Panasonic LUMIX G 20mm F1.7 ASPH. 絞りF1.8 1/60秒 ISO200 

ニコンのフィルム一眼レフ用に手に入れたVoigtlander ULTRON 40mm F2は、なかなか持ち出す機会のなかったレンズの1つ。10月、ややまとまった執筆のお仕事をいただいたことに気をよくして購入したソニーα7RⅢ(中古)に、K&F CONCEPTのマウントアダプターを介して装着し、撮影してみた。まだカット数が少ない試運転の状態でなんとも言えないが、デジタル専用レンズのようにキリッとシャープには写らないように感じた。

湧水地でエサを探すカルガモ。広角レンズでは池の周囲の木立まで入ってしまうが、画角の狭い40mmであれば画面を整理できる。汎用のフードを付けたところ四隅が若干ケラレてしまった。 SONY α7RⅢ Voigtlander ULTRON 40mm F2 K&F CONCEPT Pro NIK(G)-E 絞りF4くらい 1/320秒 ISO100

ピントは、ピーキング表示機能を使い、余裕があれば部分拡大を併用して、合わせるようにしている。まだ、ボタン類のカスタマイズが不十分で、手間取ることも多く、試行錯誤の段階。ピーキングレベルを「中」にして使い始めたが、合焦範囲が広くなりすぎるようなので、途中から「低」に切り替えてピント合わせの効率アップを図った。また、ピーキング表示が常時ONだとフレーミングのときに邪魔になるので、「AEL」ボタンにピーキング表示のON/OFFを割り当てた。ピント拡大のON/OFFも同様に「AF-ON」ボタンに割り当て、ファインダーを覗いたまま、切り替えできるようにした。

カメラをほぼ水平垂直に構えると、画面中央の消失点に向かって線を描くような線遠近法を体感できる。ディストーションの強いレンズだと、こうした撮り方が徒となることがある。 SONY α7RⅢ Voigtlander ULTRON 40mm F2 K&F CONCEPT Pro NIK(G)-E 絞りF4くらい 1/640秒 ISO100

いずれの40mmも、安易なフレーミングでは駄写真を大量生産することになるので、気軽に持ち出せる携帯性に優れたレンズだが、気楽にシャッターを切れないレンズでもある。ただ、意識的に特定の“焦点距離レンズ縛り”の撮影をするのは、頭の体操になるし、自らの表現力のアップにもつながる気がする。特に、Voigtlander ULTRON 40mm F2はまったく使いこなせていないので、これからも積極的に持ち出してみたい。