リュウキュウアカショウビンとの出会い

石垣島で出会ったリュウキュウアカショウビン

大学生のとき、野鳥研究会に所属しており、よくメンバーで高尾山へ野鳥観察に出かけた。そのとき、「昔はこの高尾山にもアカショウビンが棲息していた」と教えられた。「火の鳥」と呼ばれるように、全身が赤く、美しい鳥だ。これがきっかけとなり、いつか会いたい野鳥として意識するようになった。生息域である長野や新潟の山奥へ出かける度に、あるいは沖縄本島や石垣島に出かける度に、アカショウビンのさえずりを聴き逃さないようにと耳をそばだてて歩いていた。

それから約30年、まったく出会うチャンスのなかったアカショウビンに会いに行こうと思い立った。カメラメーカーの依頼で、新型のミラーレスカメラと超望遠レンズの解説記事を書くことになり、その被写体としてアカショウビンを撮ろうと考えたのだ。そこで、人づてに聞いた野鳥に強い石垣島のネイチャーガイドの方に協力してもらうことにした。

カッチリ撮れたリュウキュウアカショウビンの美しい姿。車の窓から超望遠レンズだけを出し、そっと撮影した。

2017年6月、石垣島で野鳥観察やその他の生きものの観察をガイドしてくれる“SeaBeans”(←モダマの意)の小林さんに相談し、こちらが仕事の撮影であることを説明したうえでツアーに参加した。ラッキーなことに、この日のツアー参加者は私ひとり。貸切状態のワンボックスカーに乗って、リュウキュウアカショウビンに会いに出かけた。

棲息域である森の中を走り始めて数分で、リュウキュウアカショウビンを発見。こちらは車を止め、窓から超望遠レンズだけ出して撮影する。車の中からだと、野鳥はあまり警戒せず、逃げることはない。ただ、道路から離れた場所にとまっていると、撮影は難しい。森を知り尽くした小林さんのおかげで、細い山道を行ったり来たりして、最適な撮影ポジションを確保。ご自身も野鳥写真を撮ることもあり、こちらの要求に素早く応えてくれるのでありがたかった。

緑に覆われた深い森の中で初めて見るリュウキュウアカショウビンは神々しいほど美しい。「キョロロロ」とさえずる声が響き渡る中、この鳥に森で出会った古の人が、「火の鳥」と呼んだ気持ちがよくわかる。

海岸近くの低木が茂る森では、捕食シーンを見せてくれた。クチバシで掴んだカマキリをポイッと放り上げ、パクッと丸呑みする。

アカショウビンの撮影で大変なのは、彼らが棲む森が暗いこと。ISO感度を上げてもシャッター速度は上げられず、手ブレや被写体ブレとの闘いになる。車の窓枠にヒジを当て、超望遠レンズを支えるが、強力な手ブレ補正機能なしにはシャープな写真は撮れないだろう。その点、この撮影に使った OLYMPUS OM-D E-M1 MarkⅡ + M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO は、コンパクトで手ブレ補正が強力なので、車内からの撮影には最適だった。

左側の個体がとまっている枝に右側の個体が飛んできて、次第に距離を詰める。

午後は別の場所で、再びリュウキュウアカショウビンの撮影。午前中は山中だったが、午後は低木が茂る海外に近い森。ここには複数のリュウキュウアカショウビンが姿を見せてくれた。撮影を続けていると一羽がもう一羽に近づく。縄張り争いでも始めるか、と思って見ていると、2羽の距離がだんだんと詰まってゆく。すると突然、右側の個体が左側の個体の上に乗り、交尾を始めた。始めたといっても一瞬のことで、うまくいったかわからない。一瞬も目を離さず、連写したおかげで、交尾したであろう瞬間は写っていた。ただ、シャッター速度が1/80秒と遅く、鮮明な写真は撮れなかった。

ほんの一瞬の出来事だった。慌てて連写を始めるが、3枚目では雄が離れ、飛び去ってしまった。

朝、8時頃スタートし、16時に撮影終了。リュウキュウアカショウビンが撮れたのは、のべ3時間ほどだが、枝にとまっている姿だけでなく、虫を補食するシーンから貴重な交尾のシーンまで、さまざまなアカショウビンの姿を撮ることができ大満足。非常に濃く、充実した1日だった。

このときは、他にオオアジサシやクロハラアジサシ、夜のツアーでは、リュウキュウコノハズクなどを撮ることができた。天候に恵まれず、撮影条件としては厳しかったし、カンムリワシは撮れなかったので、コロナ禍が収まり、沖縄への行き来が自由にできるようになったら、また石垣島へ行きたい。