みにくいアヒルの子なんて言わないで

君たちは誰? アヒルの子なの

アンデルセン童話に「みにくいアヒルの子」という話がある。アヒルのお母さんが卵を温めていると、黄色い羽毛のヒナが次々と誕生する。最後に残った卵から生まれてきたヒナは他の兄弟とは似ても似つかぬ灰色で、見た目の違いから周囲の者から虐められるという悲惨な状況から始まる。結局、灰色のヒナはアヒルの子ではなく、ハクチョウの子で、水面に映る成長した自分の姿でやっと気づくというもの。確かに黄色いアヒルのヒナは可愛い。でも、薄いグレーの羽根を持つハクチョウのヒナだって可愛いと思う。

デンマーク人のアンデルセンがモデルにしたであろう白鳥がこのコブハクチョウ。クチバシはオレンジ色で、付け根にコブがあることからその名が付けられた。英名はあまり鳴かないことから Mute Swan と呼ぶ。日本には棲息せず、観光施設などで飼育するために移入された。

写真は2017年6月、CAPA特別編集のカメラMOOK『ニコンD7500 実践活用スーパーブック』の執筆に必要な作例写真を撮った際のもの。風景写真を撮るために出かけたロケ先で、見つけたハクチョウ親子の愛らしい姿。撮らないわけにはいかない。そのとき、望遠レンズは持っていなかったが、D7500とセットで借りたレンズが高倍率ズームレンズの AF-S DX NIKKOR 18-140mm f/3.5-5.6G ED VR だったので、水路を泳ぐハクチョウを撮ることができた。

通常、コブハクチョウは4〜7個の卵を産む。このとき見たヒナの数は4羽。大きさからみると、生後1〜2週間ほどか。カルガモなどの小型のカモは、ヒナがカラスなどの外敵に襲われることが多いため卵を10個以上産むが、ガタイの大きなハクチョウは親が近くにいれば、ヒナが襲われることは少なく、4羽で十分なのかもしれない。

こんなにモコモコで可愛いのに、どうしてアンデルセンはコブハクチョウのヒナを見て、「みにくい」と発想したのだろうか。

コブハクチョウの親子と出会ったのは、岡山県倉敷市の美観地区。古い町並みの中を流れる水路を川舟が行き来する情景が、よくテレビや雑誌に紹介される有名な観光地。この日は平日だったが、観光バスで訪れる人も多く、賑わっていた。コブハクチョウたちは人慣れしているようで、カメラやスマホを持った観光客が水路に近づいても逃げようとしなかった。

白壁の蔵屋敷が建ち並び、その中を流れる水路を観光客を乗せた川舟が行き来する倉敷美観地区。この水路にはコブハクチョウが棲みついている。