Nikon New FM2のメンテナンスをしたり、OLYMPUS E-5とNikon D7200を久しぶりに持ち出したりと、一眼レフ熱が再燃している今日このごろ。現行で最強のデジタル一眼レフカメラはどれか、気になり始めた。性能からみれば、プロフェッショナルモデルのCanon EOS-1D X MarkⅢか、Nikon D6か、となるのだろうが、スポーツ写真や報道写真でも撮らないかぎり、あまり必要なカメラだとは思えない。完成度の高さでいえば、Nikon D850はかなりポイントが高い。デジタル一眼レフの完成形との評価があるように、描写性能と操作性において秀でたものがある。実写したことはなく、ニコンプラザで触っただけだが、従来機と変わらぬ操作部材のレイアウトは、D7200ユーザーの私にも違和感なく操作できる。ファインダー視野率の100%は当然だが、倍率を約0.75倍まで高めた(前モデルのD810は約0.7倍)点は賞賛に値する。Canon EOS 5D MarkⅣは、同社のデジタル一眼レフカメラとしては最良の選択になるであろう。フルサイズ機として十分な性能を持ちつつ、D850より軽量でフットワークよく撮影できる。しかし、D850の登場は2017年、EOS 5D MarkⅣは2016年誕生と時間が経っているし、しかもミラーレスカメラを使い慣れた私には重すぎる。
Canon、Nikonともに軸足を一眼レフカメラからミラーレスカメラへ移している今、一眼レフカメラを語るならば、PENTAXを外すわけにはいかない。フィルム一眼レフ時代から変わらぬKマウントを継承しつつ、デジタル一眼レフを造り続けてきたPENTAX。2003年発売の*ist Dを皮切りに、*ist DS、*ist DLなどの派生モデルを展開し、2006年には製品名に“K”の名を冠したK10D、K100Dが誕生。ボディ内手ブレ補正機構(Shake Reduction)を搭載し、K10Dはカメラグランプリ2007を受賞する。この頃までの撮像素子はCCDで、2008年発売のK20DからCMOSセンサーが搭載されるようになる。ここまでは中級機と入門機の2ラインで製品構成されてきたが、2009年発売のK-7からAPS-Cサイズ機ながら、ハイアマチュアが納得できるようなハイスペックモデルを加えた構成に変わる。
K-7は初のマグネシウム合金の外装を採用し、高い防塵防滴性能、耐寒性能を実現した本格モデル。ファインダー視野率は約100%を達成したが、その分、ファインダー倍率は約0.92倍(35mm判換算で約0.61倍)と前モデルのK20Dの約0.95倍より若干下がってしまった。ただし、このファインダー倍率はAPS-Cサイズ機としては一般的な値。他には超音波振動のダストリダクションの搭載やAFセンサーの刷新などが行われ、後のK-5やK-3につながるハイスペック路線へと進み始めた。
2010年には早くもK-7の後継機、K-5が登場する。外観はほとんど変わらないが、撮像素子やAFセンサーの強化が図られた。K-5ではなく、K-7 MarkⅡという名称でもよかったのではないかと思う。そして、2013年にK-3を発表。撮像素子を有効約2435万画素CMOSセンサーに強化し、ローパスフィルターを廃した。その代わりにモアレ低減効果を持つ、センサーシフト機構を利用した「ローパスセレクター」機能を搭載。外観こそ、K-7からK-5シリーズ、K-3とほとんど変わらないので、遠目には見分けがつかないが、中身は大きく進化した。
2015年、K-3Ⅱが登場。K-3の改良版との位置づけだが、高感度ジャイロセンサーの採用により、手ブレ補正効果を大幅に向上させた。また、センサーシフト機能を使い、複数画像を合成して高解像度の画像を生成する「リアル・レゾリューション・システム」を搭載するなど、意欲的な機能強化が見られた。見落としぎみなのが、ペンタ部に内蔵されてきたフラッシュが、K-3Ⅱでは省略されている点。その分、ファインダー倍率が約0.95倍へと若干上がっている。
PENTAXのデジタル一眼レフカメラ史の大きな転換点になるのが、2016年の35mmフルサイズ機、K-1の誕生であろう。K-3のスッキリとしたデザインとはうって代わり、中判フィルムカメラのPENTAX 67Ⅱを思わせる尖ったペンタ部の形状を持ち、軍艦部には背の高いダイヤルが林立する。このゴツゴツとした無骨なシルエットは、古き良き一眼レフを思い起こさせ、カメラファンの心を揺さぶる。やはりペンタ部のデザインは大切だとK-1を初めて見たときのことを思い出した。このK-1テイストのAPS-Cモデル、KP(2017年)の存在も、この後のPENTAXの方向性を予見させるものだったかもしれない。
前置きが長くなったが、現行の最強のデジタル一眼レフカメラの話に戻そう。最強というより、最良のデジタル一眼レフカメラと言ったほうがよいと思うが、最近までK-1、あるいは改良版のK-1 MarkⅡがベストだと思っていた。しかし、あるカメラの登場で私の考えは変わってしまった。それが、2021年発売されたK-3 MarkⅢだ。K-1はPENTAXのデジタルカメラ技術の粋を集めた最上級モデルであり、機能・性能、あらゆる面で最高の一眼レフカメラであることは間違いない。でも、道具としての一眼レフカメラを考えたとき、スペックの高さより、操作感やフィーリングを重視し、心地よく撮影できるカメラにこそ、私は魅力を感じるのだ。
自然に対峙し、ドラマチックな一瞬を捉えることが目的のフィールド一眼レフとして K-1 MarkⅡはベストチョイスだが、コンパクトなLimitedレンズを数本、ショルダーバッグに詰め、軽やかに街をスナップするなら、K-3 MarkⅢで決まりだろう。K-3 MarkⅢは、K-1をひと回り小さくしたようなシルエットで、尖ったペンタ部はいかにも一眼レフらしい佇まいをしている。操作系はむやみにレトロ感を出すのではなく、前後に電子ダイヤルを設けるなど、必要な部分には最新の考え方を取り入れている。
なにより素晴らしいのが光学ファインダー。K-1、K-1 MarkⅡでは特に表記されていないが、K-3 MarkⅢには高屈折率のガラスペンタプリズムが採用されている。このプリズムを使うことで、ファインダー倍率を高めつつ、アイレリーフを長くすることができると開発者は語っている。ただ、高屈折率ガラスペンタプリズムは硬くても脆いため、加工が非常に難しいとか。反射対策のためにプリズムの形状を何度も見直したり、コーティングの工夫をしたり、想像を絶する苦難に立ち向かい実現したのが、K-3 MarkⅢの優れた光学ファインダーだと言える。
APS-Cサイズ機は撮像素子のサイズが小さい分、35mmフルサイズ機の光学ファインダーより撮影倍率が低くなりがち。数値上は「約0.95倍」と謳っていても35mm判換算にすると「約0.63倍」となり、フィルム一眼レフの入門機並みのファインダー倍率になってしまう。K-3 MarkⅢではファインダー倍率を約1.05倍とし、35mm判換算でも約0.7倍と、フルサイズ機のK-1 MarkⅡと同等の倍率を実現している。この値は、これまでAPS-Cサイズ機としては最高のファインダー倍率を誇っていたCanon EOS 7D MarkⅡやNikon D500を上回るものだ。
ファインダー像が隅々までクリアで、歪みが無い点も素晴らしいと思う。K-3 MarkⅢのwebサイトの「開発の現場から」という記事にあるファインダー断面図を見ると、ペンタプリズムの下、フォーカシングスクリーンとの間に光学系があるのがわかる。これは、ファインダー光学系のディストーションを補正するためのレンズのようで、K-1にも同じ目的の補正レンズが設けられていた。光学ファインダーの見え方に徹底的にこだわる開発者の努力には、ただただ頭が下がる思いだ。
ただ、ここまで優れた光学ファインダーを持つカメラだと、使用するレンズにもこだわりたい。今回、試写するにあたり借りたのは、HD PENTAX-DA 20-40mm F2.8-4ED Limited DC WR。「数値で測れない、空気感を写し出す」というポリシーを持つ、Limited Lens シリーズのズームレンズだ。APS-Cサイズ機専用なので、35mm判換算では30.5〜61.5mm相当の2倍標準ズームとなる。24mmや28mmの広角域を使い慣れた人にはもの足りないかもしれないが、実際に街を撮ってみると絶妙な焦点域をカバーしていることに気づく。いかにも広角レンズで撮りました、というパースペクティブは得られないが、街角の様子を広く捉える30mm相当、散策中に出会った光景を注視した感覚に近い60mm相当、2本のレンズを瞬時に切り替えながら撮る感覚はなかなかよい。
PENTAXのデジタル一眼レフを使うのは、2012年のK-5Ⅱ以来の9年ぶり。基本操作に戸惑うことはなかったが、スマートファンクションダイヤルを使いこなせなかったことが少し心残り。短時間のトライアルなので、機能をいろいろと試すことは諦め、以前から使ってみたいと思っていたカスタムイメージの「銀残し」に絞り、浅草周辺を撮り歩くことにした。「銀残し」は映画フィルムの現像手法からきたもので、ローキー&ハイコントラストで、彩度を抑えた渋みのある表現となる。これをデジタル処理で再現したのがこの機能。調色も可能で、今回は初期設定の「グリーン」で撮影した。
K-3 MarkⅢは、ライブビュー撮影や動画撮影もできるが、背面の液晶モニターは固定式。背面モニターを固定式にすると、ボディの厚みを薄くできる。さらに、ファインダー接眼部をボディ背面から3mmほど飛び出した構造にすることで、光学ファインダーを覗いたときに、液晶モニターに鼻を押しつける必要がなくなった。確かに手元にあるニコンD7200を見ると、ファインダー接眼部と背面モニターがほぼ面一(つらいち)で、ファインダーを覗くと、モニターに鼻の脂がべったりとついてしまう。様々な撮影シーンに対応する汎用性の高さよりも、ファインダー撮影時の快適さをとって液晶モニターを固定式にした開発者とそれをOKした製品担当者を褒めてあげたいと思う。
K-3 MarkⅢに搭載されたカスタムイメージの「銀残し」は、なかなか味わい深くてよい。Adobe Lightroomを使い、RAWデータの撮影画像に対して「銀残し」を意識したデジタル処理を行うことがある。全体的にアンダーめの露出で撮り、黒レベルを下げ、明瞭度を上げて、エッジのある写真に仕上げる。ただ、私の画像処理のやり方に問題があるのだろう。加減を間違えると、トーンジャンプを起こしそうになったり、ノイジーな画像になってしまうことがある。PENTAX の「銀残し」は抑制が効いており、解像感は高いままで、エッジが効き、金属の質感もうまく強調できている。これがカメラ任せで撮れてしまうのだから恐ろしい。
光学ファインダーを覗き、一眼レフカメラで撮影する喜びを思い出させてくれるカメラが、このPENTAX K-3 MarkⅢ。ここまでファインダー撮影優先の設計思想を持つならば、ライブビュー機能や動画撮影機能は無くてもいいのでは? とも思うが、さすがにそこまで尖った製品を作ることはメーカーとして許されないのであろう。なお、お借りしたHD PENTAX-DA 20-40mm F2.8-4ED Limited DC WRは、2013年登場と時間が経っているが、その描写性能と高い質感のある外装はまったく古さを感じさせない。機能・性能を欲張り、肥大化する交換レンズが多い中、コンパクトで高品質なレンズも揃える姿勢も評価したい。
ミラーレスカメラが主流となるカメラ業界の中、デジタル一眼レフ一筋に賭けるリコーイメージング株式会社の覚悟を感じさせる象徴的なカメラ、PENTAX K-3 MarkⅢ。より多くのカメラファンがこのカメラを手にし、光学ファインダーを覗き、一眼レフカメラの魅力を再認識してもらえれば、PENTAXの未来は開けるし、カメラの世界もいっそう面白くなるのではないだろうか。デジタル一眼レフカメラの未来に幸あれ! そう願わずにはいられない。