自宅の前を流れる神田川の支流、妙正寺川。川の名前に「妙正寺」とあるが、どんな寺なのか気になっていた。今日は「歩きたいなぁ」と朝から思っていたので、川に沿ってブラブラ歩きながら、源流にある妙正寺川を目指した。妙正寺川は、川の両岸に垂直に近いコンクリート護岸が施された典型的な都市河川。流域は住宅地の中を流れ、自然といっても所々に草や藻が生える程度。それでも水質が改善したこともあり、小さな魚の姿を目にすることもあり、カモやサギの仲間の姿も川にやってくる。
川はくねくね曲がることもあるが、概ね単調。それでも、ブラブラ歩いていると、人々の生活を垣間見ることができ、退屈することはない。川沿いの植え込みには、サツキやアジサイなどの低木が植えられ、雑草が花を咲かせることもある。改めて思うのだが、住宅街にはずいぶんとアジサイが多いものだと。考えてみれば、実家の庭にもガクアジサイが植えられていたっけ。
妙正寺川は、大雨が降る度に氾濫する困った川でもある。川幅が狭いことに加え、周囲は住宅が密集しており、降った雨が地面に染み込む場所が限られる。そのため、雨は一気に川に流れこみ、洪水を起こすのだ。流域には大雨時に水を滞留させる遊水池を複数設けている。西武新宿線の鷺ノ宮駅近くにも、最近、遊水池が設けられたようで、その上に造られた運動場ではたくさんの子どもたちとその家族がボール投げなどをして楽しんでいた。
突然、空が暗い雲に覆われ、大粒の雨が降り出した。運動場で遊んでいた人々は駆け足でそばのマンションなどに逃げ込んで、川沿いの道を歩くのは私だけになってしまった。
持っていた折り畳み傘を差し、鷺ノ宮から30分ほど川に沿って歩くと、こんもりと木が茂る公園が見えてきた。これが妙正寺川の源流のある妙正寺公園だ。住宅街の中のオアシスのように現れた公園の中央には小さな池がある。小さいとは言え、島もあり、かつてはその島には弁財天を祀る小さな社もあったようだ。公園の西側と南側が少し高くなっており、すり鉢状の地形になっている。かつて、ここから泉が湧き、そこから妙正寺川が流れていたのだろう。
実は妙正寺池から北に暗渠と化した水路が続いている様子。現在は完全に蓋をされ、水が流れているかは定かでない。この水路は玉川上水の分水路、千川上水に繋がっていて、水量の少なかった妙正寺川に水を送るために造られたとのこと。今度、時間があるときにこの分水路も調べてみたい。
妙正寺公園の南に妙正寺はある。まだ新しい正門をくぐると、木立の奥に本堂。本堂には御本尊の久遠実成本師釈迦牟尼仏(久遠の昔に真実の悟りを成就して仏となった阿弥陀如来)が祀られ、日蓮聖人像、十界曼荼羅もあるという。本堂の中を見ることはできなかったが、鬼子母神、十羅刹女、弁財天、七面天女と四体の天女像も祀られている。
境内には、神仏習合の名残として三十番神堂が建つ。ここには、日蓮宗の法華経を守護するため、天照大神、八幡大神、春日大神など30柱の神が祀られている。仏に仕える神っていうのが、今ひとつしっくりこないのだが、仏教と神道が共存関係を築く姿のひとつをここに見ることができる。
寺の由来書きを読むと、三代将軍、徳川家光が鷹狩りの際に妙正寺を訪れたことがあり、それを機に有名寺院の仲間入りをしたようだ。江戸から外れ、周囲は田んぼや畑が多かったと思うのだが、御朱印寺として参拝客もそれなりにいたのだろう。妙正寺が想像していたよりも立派な寺であることがわかり、今日の散策は実り多いものだった。